SPECIAL INTERVIEW

自律船と省エネ・ゼロエミッション船の開発加速 
ー「オープン化」と「国際化」に注力ー

MTI 石塚一夫 社長、安藤英幸 船舶物流技術部門長 インタビュー

 日本郵船が推進する「デジタライゼーション・アンド・グリーン」を支える先進技術の研究開発に取り組むのがグループ内のR&D企業である MTIだ。同社の石塚一夫社長と安藤英幸船舶物流技術部門長に、自律運航船や省エネ、ゼロエミッションをはじめとする海事業界と郵船グループの技術開発の現状と展望を聞いた。

■燃費削減を深度化

ーMTIが重点的に取り組んでいる研究開発テーマは。

石塚 一つは燃費削減です。郵船グループが長年取り組んでいるテーマですが、2020年1月1日に始まった硫黄酸化物(SOx)排出規制で燃料油価格が上昇したことに対応して、燃節のもう一段の深度化に取り組みます。もう一つは自律運航船です。内航船から実証実験などが行われる見通しで、日本だけでなくノルウェーなども含む世界的な広がりになって、今後は外航分野にも関わってくると考えています。船陸間通信技術の高度化にもしっかりとついていく必要があります。CBM (コンディション・ベースト・メンテナンス)の高度化にも取り組みます。物流に関する技術では、サツマイモの輸出で船上キュアリング処理(コンテナ内の酸素・二酸化炭素濃度調整)による鮮度保持などに取り組んでいます。さらに、国際化という観点からも活動を強化しています。当社のシンガポール支店がコンサルタント契約を結び、同国の海事港湾庁(MPA)が支援する研究プロジェクトに参画できる見込みになっています。

19年は安藤部門長がノルウェーを拠点に欧州でのネットワークを拡充して、自律運航船を目指してフィンランドで立ち上がった国際的なコンソーシアム「One Sea」にアジア企業として初めて参画しました。

安藤 外航の自律船については、無人船は安全性の担保やメンテナンスの点で非常にハードルが高いため、われわれは従来から有人自律船を目指してきましたが、欧州も含めて同じ方向性でベクトルがそろいつつあるという印象を受けます。一方で、外航船と内航船のいずれでも、各種の見張り支援や意思決定の支援システムが新たに出てくるとみています。その際に、センサーのエラーやシステムの不具合によって安全が阻害されることのないよう、メーカー、船主、船級がしっかり技術の限界を理解して使って管理していかなければならないというのが、われわれの認識です。それを誰が責任を持ってやるかという意味で、自律船を考える上で避けられないシステムインテグレーションの問題がすぐそこに来ています。

■IT人材の育成課題

ー欧州でのネットワーク拡充活動の成果は。

安藤 欧州は自律船の開発が進んでいるといわれていますが、本当にそうなのか確かめることが今回の目的の一つでした。ノルウェーを中心にメーカーや船級、海事局の方とも話をしてみて、まだ全体として完成されているわけではなく技術面も制度面も多くの課題が残っており、多くの方々が同様の認識を持っていることがよく分かりました。また、ノルウェーは海事産業の持つステータスが相対的に上位にあるため、最近はIT企業で働いていたプロフェッショナルが海事産業に転職してきて海事のデジタル化を加速しているという印象を受けました。そういった方々とのコミュニケーションを通じて、すでにIT業界が持っている技術基盤を取り入れた方がいい部分や、日本の中だけでは足りず、海外から持ってきた方がいいものなどが非常にクリアになりました。

石塚 国際的なネットワークではその他に、南カリフォルニア大学と共同でAI(人工知能)を使った自動避航シミュレーションに16年から3年間取り組み、19年はいったん区切りの年になりました。同大学とは今後も共同研究を続けていきます。

安藤 南カリフォルニア大学との次の共同研究は4年間で、その第一の目標に高度なITやAIの分かる人材の育成を掲げています。日本の海事業界の中にも、最初は10人ぐらいで良いので高度なIT技術に通じ欧米とのネットワークを持つコア人材がいれば、かなり競い合えるのではないでしょうか。衝突危険船の認識や避航操船などのアプリケーションの開発は日本の強さでもあるので、どんどん進めたいと思います。そういったことを自動車など他産業の動向も見ながらハンドルできる人材の育成に、舶用機器メーカーや造船、船級などと連携して取り組みます。

ー19年のトピックスの一つとして、ノルウェーのデュアログ社、同国政府系ファンドのイノベーション・ノルウェーと共同で船舶向けサイバーリスク管理システムの開発に関するプロジェクトを発表しました。

安藤 デュアログ社とは通信基盤の整備に3年近く共同で取り組み、約15隻でトライアルを行い、データ共有についてめどが立ったので、次の2年間はさらにサイバーセキュリティーの強化に取り組むことにしました。低軌道衛星通信などの通信革命によって、船舶の常時高速通信の時代がいよいよやってくるので、それに備えて船陸間のデータ通信基盤とサイバーセキュリティーの部分を強化します。

■オープン化を目指す

ー業界横断的な取り組みに進展はありましたか。

石塚 IoSオープンプラットフォームが発足してから1年たち、次のステップの一つに国際化があります。すでに海外企業の何社かが手を挙げていると聞いていますが、こういった動きをわれわれも大いに支援したいです。

安藤 われわれは標準化活動にも力を入れています。日本舶用工業会のスマートナビゲーション研究会が現在、ISO(国際標準化機構)に三つの規格の更新と一つの新たな規格を出そうとしています。これまでは欧米の進んだ技術をアジアが導入するケースが多かったと思いますが、デジタル分野では米国と中国が特許数で拮抗していたり、韓国もITが得意だったりするなど、海事分野のデジタル化が注目を集める中で極めて混とんとしてきていて、その中でそれぞれ目的は少し異なりますが新たな産業育成の競争が起こっています。ただ、かつては国が支援する研究開発プロジェクトのゴールは製品開発でしたが、最近はゴールの一つを標準化、規格化に置く流れが明らかになっていて、これはわれわれユーザーにとっても歓迎すべきことです。システムインテグレーターは重要ですが、彼らに聞かないと何も分からないようなシステムは、船を運航する立場からはいかがなものかと思いますので、われわれとしてはオープン化や標準化の必要性を訴え続けていきます。せっかくの良い技術も、デモンストレーションで終わったり、非常に高額になるなどして一般の船に普及しなければ意味がありません。日本の海事業界がシステムインテグレーター不在でここまで来たのは、さまざまなものがオープンでメーカーや製品の選択肢が複数あり、それを造船所が取りまとめられたからです。デジタルの時代も標準化などをオープンに進めて、安全で効率的な海運を実現することが大事です。

石塚 欧州のシステムインテグレーターはクローズドで、自社グループの中で垂直統合していくようなイメージです。しかし、ユーザー目線からはオープンな形のシステムが好ましいです。

安藤 欧州の技術者と話をしていると、彼らの多くもオープン化に賛成していて、特にIT業界から入ってきた人たちはオープン化のメリットをよく分かっています。オープン化というのはある意味コモディティー化なので、自社のパッケージに囲い込もうと思っているメーカーがこれに賛同するのは難しいです。ただ、同じようなシステムをそれぞれが作ってスケールメリットも出せないという状況よりは、オープン化してまずはユーザーを広げて使われるシステムにすべきという意見が欧州でも一部出てきつつあります。

■推進効率は永遠の課題

ーIMO(国際海事機関)の温室効果ガス(GHG)削減目標に向けた取り組みは。

石塚 19年に郵船グループの環境コンセプトシップ「NYKスーパーエコシップ2050(SES2050)」を発表し、ここで液化水素による燃料電池などのゼロエミッションに向けた要素技術を盛り込んでいます。脱炭素化という社会の大きな流れの中で、当然ゼロエミッション船は今後ますますフォーカスしていく領域です。IMOの目標である2050年に排出半減を達成するには、その時すでにゼロエミッション船が一定数動いていなければならないという現実的な前提があり、そのためにはおそらく2030年ごろにはゼロエミッション船のプロトタイプがなければならないので、世界がその方向に向かっていくという認識です。また、内航から始まるというのは、自律船だけでなく新燃料についてもいえると思います。

安藤 ゼロエミッション船に向けての2020年代の大きな研究テーマは四つあります。一つ目は電気化、二つ目が燃料電池を含めて水素を何のキャリアに乗せるか。三つ目は推進効率の改良で、これは船の永遠の課題です。最後はデジタライゼーションです。例えばハイブリッド船を造るにしても、どのようなバッテリーのサイズがいいのかといった最適化問題を1回1回解いていかなければならず、そのためにはデジタル技術が必要です。

船型もまだまだ改良の余地があると思っています。模型試験だけでなく実船での計測などを用いれば、フルスケールベースで求める性能を出せる船を造ることができます。代替燃料は重油と比べると容積当たりのエネルギー量が低く、燃料タンクやバッテリーをできるだけ小さくするためにも省エネ化は非常に重要です。この分野で日本の造船所には引き続き頑張っていただきたいし、われわれもIoSオープンプラットフォームによるデータ共有の枠組みも活用しながら積極的に協力します。

ーどの代替燃料を有望視していますか。

安藤 当面のロングリリーフはLNGだと思っています。その後については、多少奇抜なアイデアも含めてできるだけ多くのプロジェクトに参加し、そこで経験を積んでいくことが重要です。風力推進も、現在のように自動車運搬船で19 ~ 20ノットで航行する前提ではどうシミュレーションを回しても成り立たないためSES2050には盛り込みませんでしたが、10ノット以下で走る船を許容する荷主が出てくれば実現の可能性があると思います。

石塚 どの代替燃料が将来有望かは、環境規制やコスト、ビジネスモデルや各地域の事情なども関わってくるので流動的だと思っています。MTIでは、これからゼロエミッション船に向けてのさまざまな研究開発プロジェクトを推進します。

 

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