電力システムインテグレーション

掲載日:2022年10月3日

外航船舶の温室効果ガス(Greenhouse Gas、以下、GHG)排出を減らす方法として、3つのアプローチ「効率的運航計画を考える運航効率化」、「GHG排出量が少ない代替燃料への移行」、「船体改造による抵抗減少や推進効率向上、再生可能エネルギーの利用といった省エネ技術の導入」があります(図 1)。

図1)GHG排出を削減する取り組み例

GHGの削減は代替燃料でGHG排出がゼロになれば全て解決するのではないかと考えられがちですが、外航船でゼロエミッションを実現する有力候補に挙げられる代替燃料は、従来のC重油と比べてエネルギー密度が低いため(図2)、現在の船型や速力を維持するために、カーゴスペースを削減し燃料タンクを大きくするか、航続距離の短縮を検討する必要があります。これらは貨物輸送にとってマイナスであるため、省エネ技術の導入によるサポートが非常に有効となります。

図2) 代替燃料 エネルギー密度のイメージ

こういった背景から電力に係わる様々な省エネ技術の開発が進められており、将来的にはGHG削減を追及するためにこれらの省エネ技術を組み合わせて搭載することが予想されます。様々なシステムが搭載されることで、電力系統は従来の外航商船におけるシンプルな構成から複雑化することが考えられ、全体最適を行うシステムが求められると考えています。

図3)船内電力システムの複雑化

Energy Management System (以下、EMS)は航海データや機関データなどの船内のIoTデータを使い、GHG排出が最小になるような各制御システムへの最適制御指令値を計算し、それを各制御システムに与える役割を担う全体最適化制御を行うシステムです(図4)。 EMSを実現するためには、安全に制御する機能と全体最適値を考える機能を分離することが必要と考えています。また、最適化ロジックはすべての船に一様に展開できるものではなく、搭載システムや運航計画に合わせたフィッティングが重要になるため、この開発作業を効率的に行うための仕組みも重要であると考えています。

図4)EMSのイメージ

現在、EMSの開発に向けたコンセプト検討を、造船所・機器メーカー・船級協会と共同で実施し、EMSの本格的な開発に向けた要素技術の概念実証を行っています。安全に制御する機能と全体最適値を考える機能の分離とモデルベースによる電力システム全体最適化戦略開発の概念実証を、2023年までに完了する予定です(図5)。その後、製品開発、サービスエコシステムの構築を行い、2025年に最終的な社会実装を目指します。日本郵船グループの一員として、2050年外航海運ネットゼロエミの目標に向け、ESG経営推進に引き続き取り組んでいきます。

(執筆担当:赤木 昂太)

図5)EMS実現に向けたロードマップ

本件に関するお問い合わせ

お問い合わせは、こちらのメールフォームからご連絡下さい。