機関事故を防ぐ油中水分アラーム開発 – 特許出願技術を盛り込み実船に搭載 –

当社は日本郵船株式会社(以下、日本郵船)と共同で、ビッグデータ活用の取り組みの一つとして、潤滑油中に含まれる水分量の異常をリアルタイムに検知できる高度アラームシステムを開発し(特許出願中)、日本郵船運航船「原町丸」の主機に搭載しました。潤滑油中の水分量に起因する主機トラブルを未然に防ぐことで、機関予防保全の高度化を目指します。

背景

船舶のエンジンを安定稼働させるためには潤滑油の適正な品質・性状の管理が重要です。特に、エンジン冷却水の漏洩や油清浄機等の関連機器の不具合により潤滑油中に水分が多く混入すると軸受損傷などの大きな事故につながる可能性があります。これまでは船上で潤滑油を定期的にサンプリングし、陸上分析機関で潤滑油中の水分量を計測していたためリアルタイムで混入水分量を把握することができませんでした。
そこで、潤滑油中の相対水分量(注1)を監視できるセンサーをトライアル船1隻の主機に取り付け、1年間データを取得しました。同時に機関室内の温度や湿度、主機回転数といった周囲環境データを日本郵船グループが開発したSIMS(注2)で収集し、相対水分量と機関室内の温度・湿度には強い相関関係があることを確認し、その相関性を活用した高度アラームの開発に至りました。

油中水分アラームシステムの概要

センサーで計測した実際の相対水分量と機関室内の温度・湿度の影響を考慮して推定した適正な相対水分量の差が許容範囲を超えると、水分混入の可能性があると判断しアラームを発します。一定値ではなく、周囲環境によってアラームを発する値が変化する高度アラームによって、より早期に異常を発見することが可能です。(特許出願中)

lub-image             <異常検知のイメージ>

今後の取り組み

高度な油中水分アラームシステムを実船に搭載し、継続してモニタリングすることで潤滑油中の水分量に起因する異常を早期に検知し安全運航を徹底します。また主機のほか発電機への実装に向けて、センサーからのデータの収集や分析を行い、新たに発電機向けの高度アラームシステムの開発を目指します。

日本郵船グループは今年3月に策定した中期経営計画“Staying Ahead 2022 with Digitalization and Green” で持続的な成長を遂げるための戦略を示しました。データとデジタル技術を駆使し、事故予防に留まらず、機器の状態基準保全(CBM)といった新たな価値創造に取り組みます。

 

(注1)潤滑油中の相対水分量
飽和水分量と比較し、どの程度潤滑油中に水分が溶け込んでいるかを示す数値。
(注2)SIMS(Ship Information Management System)
運航状態や燃費、機器状態など、毎時間の詳細な本船データを船陸間でタイムリーに共有することを可能とする装置。