日本郵船グループの攻めのデータ活用を支える基盤

2018年8月29日

■データ活用のためのインフラ整備

 日本郵船はいつの時代も安全・安定運航に向けて、さまざまなことに挑戦し、運航船の統ー安全基準「NAV9000」や船舶性能解析ソフトなどの先駆的な取り組みを行ってきた。そのような中で、2018年度から5カ年のグループ新中期経営計画で「Digitalization and Green」を打ち出し、船舶のデジタライゼーションによる高度な安全運航と効率性のさらなる向上と環境負荷の低減を、
常に半歩先を行く精神で進める方針を示した。
 郵船のデジタライゼーションを支えるシステムの一つが、08年に開発した燃費節減運航を支援するための航海データ収集システム「SIMS(シップ・インフォメーション・マネジメント・システム)」。当時の燃料油高騰を受け、船舶のデータ収集システムがまだ世の中に見当たらなかった中での開発だった。その後約6年間でコンテナ船など50隻以上に搭載し、約10%の燃費削減を達成して数千億円規模の運航コスト削減効果をもたらした。

Digitalization-and-Green

 15年にはエンジン系のデータも収集可能な後援システム「SIMS2」を開発し、これまでに約200隻に搭載している。SIMS2の活用によって、データ収集装置による効率的な船舶データの収集と船陸間での共有が可能となり、またエンジントラブルの早期発見や予防保全、安全運航を支援するアプリケ一ションも開発してきた。さらに現在は、20年に向けて次世代システム「SIMS3」の開発を進めている。
 郵船はこういったデータ収集やインフラの構築で、ITに長けた世界中の各社とともに連携。日本のみならずグローバルな視点に立ち、海事業界全体で活用できる基盤構築に向けて力を惜しまない考えだ。
 現在、日本舶用工業会の「 新スマートナビゲーションシステム研究会」(座長:MTI安藤英幸船舶技術部門長)が主導して進めている日本提案の国際規格IS019847/19848(データの名称とその収集装置に関する規格)策定でも、郵船が船社としてこれまでの
開発で得てきたユーザー視点のノウハウを提供し協力してきた。また、日本海事協会(NK)の子会社であるシップデータセンター(ShipDC)を中心に日本の海事関連企業46社が参加する「Internet of Shipsオープンプラットフォーム(loS-OP)」でも、その活動に積極的に協力している。
 郵船は研究開発の基本方針に、”データをいかに料理してビジネスに活用するかを中心に、ユーザーの視点からこれまでの知見や経験・技術を生かして戦っていく”ことを掲げる。”データをいかに料理するか”にいち早く取り組み、実際の運用に至るまでには越えるべき多くの壁があることを認識しているからこそ、今後デジタライゼーションの波に飲み込まれていく業界全体を見据えた動きをしている。

■コラボレーション開発を推進

 郵船はグループ内にMTI、日本海洋科学などの研究開発機関を持ち、これが他の海運・物流企業にはない強みとなっている。こうした研究機関、さらには郵船本体までもが海事産業内外の企業・研究機関と積極的にコラボレーションしているのも大きな特徴だ。船舶のデータ収集やインフラ構築の部分では、Dualog(ノルウェー)やNTTといった企業ともコラボレーションを進めている。
 郵船とコラボレーションした企業にはどのようなメリットがあるのか。あるメーカーは「ユーザーの意見を取り入れることにより、どういった情報、機能が望まれているのかを直接製品に反映できる。本船やプラントに設置されている製品のデータは、
メーカー単独では入手が難しいものだったが、郵船とコラボレーションすることでさまざまな運転状況のデータを入手でき、製品開発に役立てることができた」と話す。

■サイバーセキュリティー対策も

 船陸間衛星通信技術に関しては、今後5年ほどでさまざまな新しい通信衛星や低軌道衛星の実用化が進み、より高速で大容量の通信を行うことが海上でも可能になるという。さらにコネクテッド・シップ化が加速することで、データ取得だけでなく、陸上からの機器のリモートメンテナンスや、その先の高度な自動化船の開発もますます進んでいく見通しだ。
 そのようになれば、サイバーセキュリティーの対策も必要になる。現在、SIMSなどのデータ収集装置はIT機器に属するため、仮にサイバー攻撃を受けても船舶の運航そのものに影響はないが、今後ECDISなどのオペレーション・テクノロジー側の機器が陸上ともつながることになれば、対策は必須。郵船は既に対応が進んでいる海外の船級や企業などと連携し、将来に向けてさらなる安全対策を進めている。また、日本における船舶のサイバーセキュリティー対策ガイドラインの策定に向けても、業界全体に対して協力していく方針だ。

欧州海事業界もデータ共有化の動き

 船舶データの共有化の流れは、海事産業のもうーつの中心である欧州でも起こっている。船級協会のDNV GLはこのほど、欧州のプレーヤーが参加する船舶データのオープンプラットフォーム「Veracity」を立ち上げた。Veracityはデータのオーナーシップ、セキュリティー、共有などを管理しやすいように設計されている。
 Veracityのマグナス・ランデ・コマーシャル・ダイレクターは「海事業界にとっての最大の課題は、第四次産業革命と
デジタライゼーションが持つ潜在能力を最大限に活用すること。このためには、ビジネスモデルの変革に直面する全ての関係者が現状を受け入れ、データ所有権やユーザー権利といった新しい問題を解決する必要がある。これが新しい価値を想像する唯一の手段だ」と指摘する。
 DNV GLはデジタライゼーションに力を入れる欧州のさまざまな海事関係者と協力しているが、同社のトロンド・ホドネ上席副社長兼セールス・アンド・マーケティング・ダイレクターは、「われわれが感銘を受けたいくつかのモデルプロジェクトでは日本郵船とコラボレーションを行なっている」と語った。

CONTENTS

「日本郵船 デジタライゼーションへの挑戦」TOP

TOP INTERVIEW ー 新たな価値の創造に挑戦<日本郵船 内藤忠顕社長インタビュー>

SPECIAL INTERVIEW ー 省エネ・CO2排出削減が再び議論の中心に<当社代表取締役社長 田中康夫、当社船舶技術部門長 安藤英幸インタビュー>

「船」のデジタライゼーション ー 自律運航船の実現に向けた技術開発への挑戦

「運航」のデジタライゼーション ー ドライバルク部門のデータ活用

「コラボ」でデジタライゼーション ー オペレーション×ハードで全体最適追求