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新たな価値の創造に挑戦

日本郵船 内藤忠顕社長インタビュー

 日本郵船の内藤忠顕社長は、「半歩先へ」というキーフレーズとともに技術力などによる他社との差別化を訴え続けてきた。2018年度からの新中期経営計画でその方針を
一層鮮明にし、向かう先を「Digitalization and Green」と定めた。

■常に半歩先を行く

ー日本郵船グループの2018年度から5カ年の中期経営計画 “Staying Ahead 2022 with
Digitalization and Green” の中で、技術分野に一層力を入れる方針を打ち出しました。

 タイトルの “Staying Ahead” は、前中計”More Than Shipping 2018”で推進してきた”きらり技術力”による差別化をさらに進め、「他社より常に半歩先に」という精神を具現化する覚悟や、将来を見据えて事業に取り組む姿勢を表しています。
 ”Digitalization and Green”(DとG)はわれわれが生き残っていくために向かうべき道で、グループを挙げてこれを推進します。”DとG” は今や誰もが取り組んでいることですが、それを強く言うところがポイントで、これこそがわれわれが向かうところだという旗を立てました。中計は夢であり、理想とする会社を表現するものです。その夢を実現するキーとなるものがまさに “DとG” と言えます。

■ソフトで差別化

ー海運業界と日本郵船の現状をどのように認識していますか。

 海運業界はいわばニッチな産業ですが、これまでのように自分たちの努力だけでは通用しない時代が来たと感じています。同じ業界の他社はもちろんのこと、他業界とのコラボレーションが重要になるでしょう。投資もかつてのハード偏重から、ソフトの時代に変わりつつあります。
ソフトを使って差別化してい<ことにも挑戦します。

ー郵船グループの技術開発の基本方針は。

 当社が培ってきた現場力やグローバルなネットワークをはじめとするコアコンピタンスと、
社会が生み出す最先端のシステムやIoT(モノのインターネット化)技術などの事業化要素を結び付け、サプライチェーン全体の最適化や環境分野における新たな価値の創造に挑みます。

ー取り組みの具体例は。

 運航データをリアルタイムで収集・解析できる「SIMS」(シップ・インフォメーション・
マネジメント・システム)の活用が当社のデジタライゼーションの代表例です。蓄積した大量の運航データをいずれはAl(人工知能)も使って解析し、航行時の危険や不具合の予知に使いたいと思っています。現在のプロセスはその道半ばあたりにいると考えていて、その先に自律運航船のような新たな船舶の姿が見えてくるでしょう。
 当社が持つ安全運航や効率運航、予防保全の既在技術や応用技術をloTに組み入れていきます。当社はこのような取り組みをかなり前から進めており、その結果、既に実際に利用できるものをつくり出しています。運航情報の‘‘見える化”は完了し、次の“知らせる化”、”予防保全”に取り組んでいるところです。 エンジンのピストン内部の自動撮影ツール「きらりNINJA 」や、音によるエンジン診断システム「きらりMUSE」をはじめとした、コンディション・ベ一スト・メンテナンス(CBM)への取り組みが予防保全への取り組みの例に挙げられます。ほかにもさまざまな研究を行っており、他社とのコラボレーションも進めています。
 船舶の実海域性能も非常に重要です。loT技術で把握できる実海域性能データを活用することがコアコンピタンスの源泉になり、ハードの改善やオペレーションの向上につながります。

ー自律運航船の実現に向けた道筋は。

 船舶は ‘‘無人” にはならず、最後まで “有人” だと思っています。非常にバリューが高い船舶を、外的要因がさまざまに絡み合う洋上において、無人で動かすことには疑問符が付くからです。
われわれが常に目指しているのは高度な安全運航です。データを活用し船陸間で交信しながら、最終的な判断は乗船する人が行う “有人自律運航船” が最終的な姿ではないでしょうか。

■グループ内の研究機関を活用

ー技術開発に関して、世界の中で郵船はどの位置にいると思いますか。

 世界を見渡すと、環境関連は欧州、船陸間のデータ交換は日本と欧州、オフショアは韓国とシンガポールといったようにそれぞれの国や地域で得意な分野があります。その中でわれわれが
今どの位置にいるのかは、正直よく分かりません。ただ、当社グループにはMTI、日本海洋科学、NYK Business Systems (NBS)、シンフォニー・クリエイティブ ・ ソリューションズ(SCS)などの研究開発に関連する機関があります。このように多くの研究開発機関を持つ海運・物流会社は珍しいので、持っているものを生かしてさらなる挑戦を進めたいです。

ー内藤社長は技術開発の分野で企業間の連携、オープンイノべーションが重要になると訴えてきました。

 新しいものを生み出す時には多様性が非常に大事です。思いもよらないところから新しいものが出てくるかもしれませんので、最初からこういう人たちと付き合いたいと限定しない方が良いでしょう。既に他産業にある技術をわれわれが生かすことができるのであれば、要素技術を借りてきて一緒に開発していくということもあり得ると思います。

ー求められる人材像もこれまでと変わるでしょうか。

 ”DとG”の取り組みで求められる人材は、チャレンジできて好奇心がある人。そういう人たちにもっと脚光を当てたい。ただし企業には守りに強い人も必要なので、社内に目を向けても多様な人材をそろえることが大事です。

■環境事業に挑む

ーグリーンの取り組み方針は。

 三つの側面から取り組みます。一つ目は2020年のSOx(硫黄酸化物)排出規制をはじめとするルール対応。二つ目はCO2(二酸化炭素)排出量の削減で、これは省エネにも直結するので運航とハードの両面で効率化を進めていきます。三つ目は環境分野の事業化で、バルク・エネルギー輸送統轄グループ内に4月1日付で設置したグリーンビジネスチームを中心に取り組みます。

ーグリーンの事業化で特に有望視している分野は。

 風力発電、バイオマス、水素キャリア、グリーンターミナルなどさまざまです。既に事業化が決まっているものとしてベルギー・ゼーブルージュ港の完成車ターミナルでの風力発電事業があります。再生可能エネルギーヘの取り組みなどで環境に優しく、かつ収益が上がるビジネスを展開できれば素晴らしいです。

ー2020年のSOx規制への対応は。

 当社の運航船は800隻弱で、このうち自社船が約250隻です。SOx規制にはスクラバー、
LNG・LPGといったガス燃料、規制適合油という三つの対策がありますが、どれか一つの対策に偏らず組み合わせで対応していきます。

ー技術が高度に進化した未来の海運の姿をどのように思い描きますか。

 映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に、デロリアンという車が未来から飛んできて、その辺に落ちているゴミを拾ってエネルギ ーにしてまた飛んで行くという印象的なシーンがあります。このように、船舶も極限まで効率化した上で再生可能エネルギーを動力とする日が来るのではないでしょうか。海運はどちらかというとのんびりしていた業界だと思いますが、ここに来て進展が早くなっ ているので、将来が楽しみです。

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SPECIAL INTERVIEW ー 省エネ・CO2排出削減が再び議論の中心に<当社代表取締役社長 田中康夫、当社船舶技術部門長 安藤英幸インタビュー>

日本郵船グループの攻めのデータ活用を支える基盤

「船」のデジタライゼーション ー 自律運航船の実現に向けた技術開発への挑戦

「運航」のデジタライゼーション ー ドライバルク部門のデータ活用

「コラボ」でデジタライゼーション ー オペレーション×ハードで全体最適追求

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