自動運航船のシステム開発における船舶操縦運動シミュレーション活用

掲載日:2025年12月23日

船舶操縦運動シミュレーションの開発

船舶開発におけるモデルベース開発

自動運転のような複雑なシステムの開発では、システムの動作や構造をコンピュータ上に作成したモデルを基盤として設計や検証を進めるモデルベース開発1)(MBD:Model Based Development)が広く活用されるようになっています。MBDの検証フェーズではシミュレーション技術が重要な役割を担い、開発途中での異常や問題を早期に発見することで手戻りを最小限に抑え、試作工数やコストを削減できるという大きなメリットがあります。

当社のモデル開発の取り組み

当社では、自動運航船の開発においてもモデルベースでのシミュレーションを積極的に活用しています2)。自動運航船の主要機能である避航操船や自動離着桟を実現するための制御機器を実船搭載前に仮想環境で検証することを目的に、船舶の操縦運動モデルやシミュレーション技術の開発を進めてきました。模型船を用いた水槽試験のデータを元に、実海域での風や波による外乱、水深の影響などを精度良く再現できるモデルを構築することで、設計段階で制御機器の問題点を事前に把握することができ、性能改善へと繋がりました。

これらの操縦運動モデルは広島大学3)や大阪大学4)との共同研究により開発しております。また水槽試験やCFDに加え、実船の運航データを活用した効率的なモデル開発手法やパラメータ修正手法についても大阪大学4)や横浜国立大学5)と共同研究を行ってきました。

模型船を用いて船の離着岸の様子を模した水槽試験

シミュレーションを用いた統合接続試験

システム間の統合接続試験

自動運航システムを含む先進機器は単体で完結せず、複数の機器が相互に連携して動作する特性を持ちます。そのため、開発段階から実際の機器同士を接続し、動作確認を行う接続試験が不可欠です。こうした試験を早期に行うことでシステム間に渡る問題を迅速に特定し、改善を重ねることで、開発効率と品質の向上を同時に実現できます。この統合的な接続試験の環境としてもシミュレーターを活用します。

当社でのシミュレーション環境の活用

当社の自動運航船の開発においては先進機器間の接続試験の一環としてHiLS(Hardware in the Loop Simulation)試験を実施しました。HiLSとは、開発した制御機器を物理シミュレーターに接続してシステム全体を構築し、入出力のインターフェースや信号のやり取りが正常に動作するかを検証する手法です。この際に使用したのが、船級機関※1DNVが提供するシミュレーションプラットフォーム「CyberSea」です。
CyberSea内には同じく水槽試験データを元にした操縦運動モデルを実装しております。操舵量やプロペラ回転数に応じた船体運動を模擬できることに加え、想定されたシナリオを元に実際の外部機器からの制御信号や通信を受け取りながら操船をシミュレートすることで、より実船に近い条件で試験を行うことが可能です。その結果、先進機器間の接続試験を効率的かつ高精度に実施でき、開発効率と信頼性の向上に大きく貢献しました。

シミュレーションプラットフォーム CyberSea*

今後の展望

船体の動きを精度よく再現できる操縦運動モデルの開発や、それを用いた統合的な接続試験が実施出来るシミュレーション環境は、自動運航船をはじめとする複雑かつ正確な動作が求められるシステムズエンジニアリングにおいて非常に重要な要素となります。
今後も、当社が推進するDFFAS+プロジェクトへのシミュレーション基盤提供をはじめ、様々な場面での操縦運動モデルおよび統合接続シミュレーション環境の活用に向け、開発を進めていきます。

※1 船の技術基準を定め、検査・承認を行い、船級と呼ばれる技術規則適合ステータスの付与を担う独立第三者機関。

参考文献

(1) 東京大学:MBD・MBSE の自動運航船開発における活用, 日本船舶海洋工学会誌 KANRIN(咸臨, 海事デジタルエンジニアリング-前編-
(2) MTI:自動運航船開発のためのシミュレーション基盤, 日本船舶海洋工学会講演会論文集 第 38 号
(3) 広島大学:サイドスラスタによる船の旋回運動シミュレーション, 日本船舶海洋工学会講演会論文集 第39号
(4) 大阪大学:実船データを用いた操縦運動モデルのパラメータのファインチューニング, 日本船舶海洋工学会講演会論文集 第 37 号
(5) 横浜国立大学:MMG 3DOF model identification with uncertainty of observation and hydrodynamic maneuvering coefficients using MCMC method, Journal of Marine Science and Technology (2024) 29:668–682

(執筆担当:谷原 圭祐、松下 凜太郎)

関連リンク

Monohakobi Techno Forum 2021講演資料:「DFFASプロジェクトにおける船体運動モデルの開発と活用」二木 崚佑

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