「Monohakobi Techno Forum 2021」に寄せられたご質問への回答(Q&A)を
掲載しました

「Monohakobi Techno Forum 2021」では残念ながら質疑応答ができませんでしたが、アンケートに寄せられたご質問への回答(Q&A)を掲載します。
あらためて、アンケートにご回答いただいた皆様に感謝申し上げます。なお、追加で頂きましたご質問につきましても追って回答を掲載いたします。

Day 1

中村 純 講演『自律船導入の背景と実現に向けた課題 ~DFFASプロジェクトの取り組みから~』
Q1 通信インフラにおいてLTEや衛星回線を活用されるものと思います。LTEは通信範囲が沿岸までに限られ、衛星回線は通信遅延がありますが、その点はどのように考えておられるのでしょうか?人の介在でカバーされるということでしょうか?
A1 本プロジェクトでは、LTEや衛星回線の通信状態を判断し、シームレスに最適な通信経路を切り替える仕様となっています。
今後は通信インフラの進歩によりこれら問題は補完されるものと考えます。
Q2 入力→出力という一方向なシステムのみならず、対話的な自律システムという要素もあるのでしょうか? 人間の信頼性と柔軟性を活かすために
ヒューマンファクターを補完しつつ承認段階で人間が介入する余地を残すという点は賛成なのですが、例えばシステムの出力と背景を見た上で人間が下す判断が一部誤りという可能性もあるかと思います。 
A2 人間のシステムに対する介入度合いをどのように想定するか、というシステムの ConOps(運用コンセプト)次第と考えます。
栁原 智哉 講演『自律船の設計・実装アプローチ ~DFFASプロジェクトの取り組みから~』
Q1 商業ベースでとらえた場合、現状では1隻ごとに搭載機器が異なる(メーカー型式等)と思います。1隻ごとにオーダーメイドすることになるのでしょうか?
A1 どの海域を自律航行の対象とするか、どのようにフォールバックを行うかなど、システムの ConOps によってシステムが持つべき機能や信頼性にバリエーションが出るため、少なくともセミオーダーメイドになります。
Q2 船員の技術レベル低下も問題になっているかと思います。
そもそも「システムが信頼できるのか」を適切に判断する能力をもつ経験者が不足している問題は解消されませんが、この点についてどの様にお考えでしょうか?
A2 システムの表示や判断のバックグラウンドにある考え方を理解すること、あるいはシステムを適切に操作できることなどは、システムを運用するための前提となります。そのためシステムの運用者である人間に対し適切な訓練や手順の設定をする、ということがシステムを利用するための要件となります。
Q3 輻輳(ふくそう)海域で急に近くに小舟が出てきた時など、一気にマニュアル操船に切り替わるのでしょうか?
危険度はケースバイケースで変わりますが、臨機にどのようなロジックで切り替えの判断をするのでしょうか?
A3 急に小舟が現れる事象は検知漏れに当たります。そのようなことが無いよう、レーダーなどの複数センサーを統合して信頼性を高め、早期に物標検知を行います。また臨機においては、予め各サブシステムの健全性レベルを定義しておく(急に小物標が出てきた、というような状況を健全性レベルにマッピングする)ことで、適切にシステムの状態を切り替えます。その際、システムの ConOps やフォールバックの在り様を考慮して定義することが重要となります。
西山 尚材 講演『自律船の評価・検証体制 ~DFFASプロジェクトの取り組みから~』
Q1 2022年に本船に搭載して評価するに当たり、陸上統合試験で検証できていない点や今後発生する可能性のある問題としてどのようなものを想定しているでしょうか?
A1 陸上統合試験では、実環境(自然・交通)および実際の駆動装置(舵機、スラスタ)での評価は実施できておりません。本船における試験ではこの部分の差異に起因する問題が発生すると考えています。
二木 崚佑 講演『DFFASプロジェクトにおける船体運動モデルの開発と活用』
Q1 自律運航システムが製品化され、様々な船型の船舶に搭載された際には、各船舶毎に船体運動特性を別途設定する必要があるという認識で良いでしょうか?
A1 はい。シミュレーションを用いてある程度の運動特性を把握できるものの、製品を搭載後には洋上での調整が必要になると考えます。
Q2 低速域、浅水深、バウスラスタ、逆転などによる船の動きを再現する船体運動モデルを水槽試験などを用いて調整されたことに敬意を表します。精緻なMMGモデルでなくとも気象海象やアクチュエーター対する応答が実用的に表現できればシステム開発に使えるということかと思いましたが、いかがでしょうか。
A2 実用に資するものであれば簡略化されたモデルであってもシステム開発に十分活用できると考えます。しかし今回のDFFAS PJにおきましては、追及すべきモデルの精緻さの度合いが未知であったことと、洋上試験段階での作業の手戻りを最小にしたいという考えから、可能な限りの運動影響をモデルに反映しております。
井上 伸一 講演『船舶機関システムの自律化 ~DFFAS PJ/海事産業集約連携促進技術開発支援事業での取り組み~』
Q1 現在、内航船の機関の一部に高度船舶安全管理システムが導入されているが、これとの比較において本講演で検討しているシステムはどのような位置付けになるのか。
A1 高度船舶安全管理システムは主機に限定した状態監視システムと理解していますが、検討しているシステムは機関システム全体の状態監視を目的としています。また異常検出だけでなく原因推定及び復旧方法選択といった次のステップまでをシステム化する位置付けになると考えています。
Q2 この遠隔機関監視システムは、基本的に乗員が行うという理解でよいか?機関メーカーでも本システムに類似したものがある。
A2 まずは船員(乗船実務経験者)による陸上監視を想定していますが、陸上監視のノウハウができれば、船員に限らない人員を採用・育成するという運用もできると考えます。国交省補助事業で開発を目指すシステムは異常原因の推定及び復旧方法の選択までを自動で行うものですので、将来的には船員でなくても陸上監視ができると考えます。また監視対象データをメーカーエンジニアとリアルタイムで共有し専門家によるデータ分析を行うことができる体制の構築も考えられます。
角田 領 講演『安全・脱炭素への取り組みとシミュレーション技術 ~ユーザーとメーカーの連携による高度システム開発を目指して~』
Q1 DFFASに適用した統合シミュレーション環境の計算コストはどの程度か?またシミュレーションの信頼性評価はどのように行われているのか。
A1 実機との接続を行わない、MiLS (Model in the loop simulation)を実施する場合、ファストタイムでの実行が可能であり計算コストは低いです。
シミュレーター内の運動モデルの精度評価は水槽試験、実船データとの比較により実施しています。

Day 2

渡部 潤 講演『筒内圧データ活用による主機状態診断の取り組み ~データ解釈手段としてのシミュレーター~』
Q1 これだけのパラメーターが存在する中で実データのフィッティングに成功したアプローチについて説明をいただきたい。
また、fault injectionにおいて再現した異常状態は、実際の主機で異常状態が起きた時と一致しているのでしょうか?
すなわち、フィッティングで得たシミュレーションにおいて、多少条件を変更したときにその結果は実データを追えているのでしょうか?
A1 フィッティングのアプローチについては非公開としますが、NDAを前提とした共同研究等を行う中で開示することは可能です。Fault Injectionの結果が実データを追えているかについては完全には検証できていません。これは実機の「真の状態」が現状では把握しにくいためです。例えば排気弁シート部に損傷が発生した場合に、物理的に気筒内でどれだけの気密性が担保されている状態なのか、といった点についてリアルタイムで把握することはまだ難しいです。
Q2 筒内圧システムがあればそれを見れば良いと感じたので、なぜシミュレーションが必要なのかが良く理解できませんでした。筒内圧システムが高額ゆえ、他の入力値で代替し、燃焼状態をシミュレートしたいのかと想像しましたが、シミュレーションに使うインプットが何かがもう少し示されたらより理解できたかとも思った次第です。
なお筒内圧の利活用としては、異常検知以外にもパフォーマンスチューニングとしても利用可能ではないかと思いますがその方向には向かわないのでしょうか?
A2 筒内圧システムにて、実データから物理演算を介して特徴量を計算していますが、その特徴量が上下することが何を意味するかを理解するためシミュレーションを行っています。パフォーマンスチューニングにも現在取り組んでいます。例えば各気筒間で筒内圧のバラつきがある場合、それに起因するロスがどれほど発生しているか、といったことを定量化し、最適運航に繋げられないか、といった試みです。
柴田 隼吾 講演『船舶サイバーセキュリティ対策の取り組みアップデート』
Q1 本船側への外部/船内からの不正アクセス防御はゼロトラストも候補かと思いますが、ゼロトラスト(以下 ZT)までは不要とか、ZT導入の課題などといった議論も為されているでしょうか?
A1 ZTについては、米国のNIST(国立標準技術研究所)が公表している「SP800-207 ゼロトラスト・アーキテクチャ」をベースに、船舶に対してZTがどのように適用できるのかを検討しています。今後、船陸間通信の環境がより高速化され、船内のITシステムが陸上システムと常時接続されるようになった際には、このZTの考え方を船舶のITシステムやネットワークにも導入していく必要があると考えます。一方で、船舶OT側の舶用機器やネットワークにおいては、ZTの考え方がそのまま適用できるとは現時点では考えられず、船舶OTに適したルールの策定や、機器の対応などを今後していく必要があると考えます。
Q2 本船のセキリュティやネットワークシステムが高度化すると、船員にとって内部構造が理解しにくく複雑なものとなっていくと思いますが、システムトラブルが起きた際にどのように対応することを想定しているのでしょうか?(各船に情報系の管理者や技術者を同行させる、船員に情報教育を行うなど、検討されていることがあれば)
A2 基本的には、原因が複雑なシステムトラブルであっても、結果として起こる事象に対しまずは安全確保を第一に、現行の運航安全管理の仕組みに則り、本船と陸上とで連携しながら早期復旧を目指して対応いくことになります。また船上と陸上いずれの関係者においても、同じレベルで対応できるよう、マニュアル化、定期的な教育、また対応訓練などを実施しています。