アンケートにて頂いたご質問・ご意見への回答

前田 佳彦 講演「2050年ゼロエミッションにむけて ~環境規制影響と技術導入検討~」
Q 今後は海事産業のみならず各国政府や関連ステークホルダー全体で同じ方向を向いて、かつ同時に動き出さなければならないと思いますが、そのための活動がどのように行われているのか、また現状を教えてください。
A 船舶におけるGHG削減については、サプライチェーン全体で取り組む必要がありますが、現状では船主、運航会社、荷主などのステークホルダー介在しています。そのような状況下において、具体的な施策を実行する取り組みとして、”Green Shipping Corridor” といった特定港間・特定貨物でのGHG削減をステークホルダーが協力し検証・推進されています。
Q CO2以外のGHGへの取り組みについいて教えてください。
A CO2以外のGHGに対する対応については、EU-ETSでは順次適用範囲が拡大され、2026年からはメタンスリップや亜酸化窒素への適用が予定されています。また、国際海事機関(IMO)でもモニタリング手法が検討されており、今後、各種規制の動向が定まると予想されます。
山口 真 講演「船舶電化の進展と電力最適制御システムの構築に向けて」
Q HzNaviによる燃節効果の実船実装履歴について教えてください。
A 2024年1月時点で本船就航から1年1か月経過しております。
Q 1) 周波数を下げるとNOxが増える理由を教えてください。
2) SOCを下げて終了ですか?
3) 運航全体での制御の狙いについて教えてください。
A 1) 機関特性によるもので、今回のケースにおいては周波数を下げた場合の方が燃焼効率の高い領域になっており、燃焼効率が良い=火炎温度が高いということからThermal NOxが増大するものとなります。
2) SOCを下げて終了、の部分はシミュレーション結果の一例を示したものへのコメントと推察致しますが、当該シミュレーションでのシナリオ(運航パターン)においては、バッテリを充電して利用するよりも軸発電機にて発電する方が全体として効率が良いという結果になったものと考えております。もちろん、シナリオ設定によっては別の結果となることもございます。
3) 運航全体での制御の狙いは、システムの部分最適化ではなく、全体最適化(異なる運航パターン、機器構成の船ごとに機器の制御を柔軟に変更し、効率向上と安全運用を両立させること)になります。
Q 今回は内航船に特化したものと思いますが、今後外航船のEV化の動向や課題を教えてください。
A ご指摘通り、外航船の完全EV化については、エネルギー密度の観点から現状は難易度が高い状況ですが、EV化も含めた船舶及び船舶システム設計全体における最適化を検討していくことで、外航船舶においてもEV化が進んでいくものと予想しております。
Q バッテリーの期待寿命をどの程度で見積もっていますか?
A バッテリーの期待寿命については現状のシミュレーションにおいては考慮されておりませんが、電化関連の各種プロジェクトにおいては、一般的な値で10~15年程度を想定しております。
Q ソフトウェアの制御の深度下によっても、効果は高くなりますか?
A ご指摘通りで、ソフトウェアの制御深度化による効率改善がEMSを開発している狙いの1つとなります。
Q 船舶の運航モード(港内、通常航海、荷役など)により最適とされる制御方法は異なりますが、それらをどの様にシステムは検知するのかを教えてください。
A 現状ではシステム側で運航モードを検知して制御モードを自動で変えることは想定しておらず、運用者の意思によってモードが切り替えられるようなシステムを想定しております。ただし、各船の運航プロファイルなどを踏まえて、自動化ができるようになってきた場合、そういった制御にしていくことも検討していきたいと考えております。
Q 日本国内において、システムインテグレーターの価値はどの程度認められていますか?
A システムの複雑化に伴い、システムインテグレーターは非常に重要であり、現状は欧州などと比較しても国内ではインテグレーターが少なく、国内海事産業の大きな課題の一つと認識しております。従い、今後更に需要は大きくなっていくと考えております。
Q EMSは前田様ご紹介のMACカーブでは投資回収は何年ぐらいになりますか?
A 現状導入費用の算出がまだできておりませんので、今後開発を進捗させる中でEMS導入に関する費用対効果についても検討、確認したいと考えております。
角田 領 講演「荒天中の船体運動と貨物挙動シミュレーション」
Q 大きな動揺が発生する可能性が高い領域を表現する方法は他にもありそうですが、航海士にとってはポーラチャートが一番使いやすいのでしょうか?
A ポーラーチャートはIMO(国際海事機関)の「荒天中の操船ガイドライン」の中でも採用されている表現方法であり、避けるべき波向き、船速の範囲が1枚の絵で判断できるという点で、分かりやすい表現方法となっております。同じポーラーチャートによる表現でも、予想される動揺の大きさに合わせたコンターの描画には様々なやり方があり、MTIでは航海士へのヒアリングを実施した上で、分かりやすい描画方法を選定しました。
Q ポーラーチャートのシステムについて、実現象との乖離がありますか?
A ポーラーチャートシステムは、喫水・GM毎、波高毎に最大で起こりうる横揺れ応答を時間領域で事前に計算しておき、この事前計算結果を参照して、warningを出します。あくまでもwarningを出すことを目的としているため、実際には大きな動揺は発生しなかったというケースはあります。計算の精度を上げていくという取り組みは今後も重要と考えております。
Q 既存のシミュレーションと新たに開発したシュミレーションの良しあしを明確に理解しきれませんでしたので、教えてください。
A 船体動揺のシミュレーションについては、弊社では従来、周波数領域での応答計算に取り組んできましたが、パラメトリックロール応答のような非線形影響を含む応答計算を実施するために、時間領域での計算手法を導入しました。
コンテナスタックのシミュレーションについては、本研究のために3D有限要素法によりオリジナルのモデルを開発し、模型データで検証を実施しています。
Q Laden及びBallastコンディションにおける貨物挙動変化の検証を教えてください。
A 貨物コンディションに関しては、特にGMが小さいときにパラメトリックロールが発生しやすく、大きな横揺れが発生しやすいことが理論的に分かっています。コンテナスタックの試験は、横揺れ角や周期を変える等、様々なパターンで実施しており、検証を進めていきたいと考えております。
Q 動揺が激しいことに対しては運航の仕方で対処するのでしょうか?もしくはハード面でも開発をするのでしょうか?
A ソフト、ハード両面でのアプローチが重要と考えています。既存の船に対するアプローチとしては、レトロフィットのしやすさの観点から、まずはソフト面での対応がメインとなると考えております。
Q 倒壊事故の要因や防止策を教えてください。
A コンテナ倒壊事故の要因については様々な要因が考えられますが、2022年に始まったオランダの海事研究機関MARINが進めるJIP(Joint Industry Project)であるTopTierの中で、船社、船級、造船所など関係者が集まって、大規模な研究が進められています。JIPは今年で完了予定であり、今後報告書等も公開されるものがあると思いますので、参考にしてください。
Q パラメトリックロール、コンテナスタックのシミュレーション手法について教えてください。
A パラメトリックロール応答の計算にはClassNKの「パラメトリックロール対策に関するガイドライン」に示されている一自由度方程式を利用しています。コンテナスタックのシミュレーションには、コンテナをフレームで表現した3D有限要素モデルを用いています。このモデルにはコンテナ前後での剛性差のような非線形影響や、ツイストロックのガタによる非線形影響も考慮されています。
Q 今回実測されているデータの中で、Berthingの際に最悪どの程度の荒天条件となっていますか?
A 港毎に離着岸基準が決められています。風速の基準が設定されており、その数値は港や岸壁、船の大きさ、タグボートを使うかどうか等によっても異なります。
小川 大智 講演「機械学習による波浪中リアルタイム船体運動予測」
Q 機械学習のモデルの要素から時系列情報をどう取り扱っているのか分からなかったので、その工夫を解説してください。
A 時系列100秒分のデータをinputとして扱っています。本モデルでは2Hzでデータ収集しています。Inputのデータセットは本船周囲78点の波高と6自由度の船体動揺値の計78+6=84点、Outputのデータセットは2自由度船体動揺値計2点です。 Inputにはt=0からt=100までの100秒間での各84点のデータセットを並べます。ゆえにinputの総データ数は 100s*2Hz*84data=16800点です。ここからその先t=100からt=130までの30秒間における2自由度の船体動揺データセットを予測します。ゆえにOutputの総データ数は 30s*2Hz*2data=120点です。 工夫点は、機械学習モデルを簡素にするためにHeave-Pitch, Yaw-Roll, Surge-Swayと2自由度ずつ船体動揺を予測するモデルを計3つ作成したことです。ゆえにOutputでのデータセットは2自由度船体動揺の2点となっています。
中村 純 講演「自動運航船におけるコンセプト設計とMEGURI2040の取り組み」
Q 今後の自動運航船に乗り組む船員の教育についてはどのような事を具体的にお考えですか?機関士1名による運航要件と遠隔監視の具体的な方法はどの様にお考えですか?
A 具体的方法は現在開発中のため詳細はお答えできませんが、船級や関係各所とコンセプト設計、リスクアセスメントを進めながら機能要件、性能要件を洗い出している。コンセプト設計、リスクアセスメントの中で洗い出された要件の中で人が追加で対応すべきものと、必要な教育を検討しています。
Q 規格WGの現在の具体的な取り組み状況の詳細や規制のサンドボックス制度等をどのように活用するつもりですか?実際に活用できそうなのか等を教えてください。また、昨年度までの講演では「自律船」という用語を使用していたかと思いますが、本講演のタイトルが「自動運航船」となっていたのは何か理由がありますか?
A ISOへコンソーシアムで現在検討している規格案の頭出しなど開始しております。また案件によってはIECへのインプットを検討しています。現規制に対する対応は国交省、船級など関係各所と検討を開始しております。またタイトルは国交省様が自動運航船の用語を使用されているので社会実装を念頭において、今回は自動運航船で統一しました。

※その他、講演内容について以下コメントを頂きましたので、補足いたします。

コメント 少人数船や無人化船の開発が必要なのは将来の労働人口、船員の激減を想定したものであることは理論的には十分理解できるが人為的なミスが多いことが原因で海難事故が発生するおそれを防ぐために船内無人化にするのは理論的に不適切な理論だと思う。過去に国内船フェリーが2台ある主機関が同時に停止して長時間漂流する事故が発生した。セントラルクーラー系の海水ポンプが水に浸かりショートしたのが原因であった。後少しで座礁事故に至るところであった。機械的なトラブルが原因で海難事故に発展する場合もあるので保安応急の為の海技士は最低限乗船が必要と思われる、レールのない海面を航行している船舶何が起こるか予測できないので。
補足 コメントありがとうございます。おっしゃる通り無人運航船というのはハードルが高い点が多く、対象海域、本船の使用用途を限定するなどの対応を検討した上で、実現可否を判断するものと考えております。(実際に海外でもそのような検討のもと進んでおります)MTIでも安全運航の達成という点での自動運航船の活用ではスライドの30ページ目に記載させて頂いているように、人の強み(信頼性と対応力)と機械の強み(正確性と並列処理)を組み合わせることで達成したいと考えています。操船の一例ですが現在の操船者は経験を元に交通状況の先読みはできますが。輻輳域で発生するような10隻同時の動静把握、リスク分析等は苦手にしております。そのため複数の当直者を船橋に配置している状況です。一方機械はスペックが許せば多数船舶の並列処理も可能であります。自動運航船として開発している機能は機械単体で考えているのではなく、状況にあわせ人(責任者)に対してどうサポートしていくかになりますので、安全運航につながってくると考えています。
菅野 聡太 講演「新燃料機関システムにおけるリスク管理スキーム構築」
Q FMEAによるLDコンプレッサーのリスク評価は実職機関士のブレインストーミングにより実施されたか教えてください。
A 故障モードの洗い出しとその後のFMEAについては、トラブル事例も参考にしつつNYK工務部門からの出向者を中心に行い、NYK機関長および造船所機装設計からの出向者により確認を行いました。
Q リスクの見方の客観性の担保方法が詳しく教えてください。
A 対象機器に関する具体的かつ網羅的な基準を示すガイドライン等は存在しないため、本研究では異なるバックグラウンドを持つ複数の技術者により、リスク評価のプロセスおよび結果の確認を行い、故障モードの影響度および検出度の判定に際しては、実際のトラブル事例も参照しました。今後造船所やメーカーと共同でリスク管理を検討していく際には、客観性の担保がより重要になってくるため、その方法が課題と認識しております。
Q システムを階層化してモデリングした上でFMEAを実施したと理解しましたが、FMEAは各階層で実施したのでしょうか?それとも最下層のみでしょうか?後者の場合、上位階層は本リスク管理スキームにどのような関連がありますか?
A 部品・サブシステムレベルでの故障が、より重要度の高い、システムレベルでの故障・ハザードに伝搬していくため、最下層の部品レベルだけではなく、上位のシステムレベルまで一貫してFMEAを実施してリスク低減策を検討しております。
Q 故障伝搬関係を整理する作業を正確に構成する手法に何か工夫はありますか?
A 講演中でご説明したリスク評価ツールによって、FMEAで整理した原因-影響の関係が自動でつながっていき、故障伝搬関係が整理されます。
小知井 秀馬 講演「船舶機関シミュレーションによる故障箇所推定手法の構築」
Q 故障診断は主機に限らず、補機に対しても必要になるとは思います。しかし、今後の燃料代替、置換の流れ次第では今まで予想していない様な故障や、異常も出てくることが想定されます。例えば、今までの故障と類似しているものの影響が広範囲に渡るといった事や、対応が今までの対応と異なるものに関しては機器に対する故障診断に対して影響度は高まるといった認識で宜しいでしょうか?
A ご認識の通りで本研究の様な取り組みは、主機のみならず補機を含めた本船プラント全体での検討や、今後の新燃料転換では各場面で対応の再検討を要する場合もあります。例えばバーナ故障が発生した際の蒸気が生成できなくなる場面を想定すると、従来船であれば燃料加熱に支障をきたし燃料切替の対応などが必要ですが、LNG燃料船の場合はLNG燃料加熱への影響だけでなく、BOG処理が出来なくなりLNGタンク圧が上昇するリスクの考慮も必要など、条件の違いで各機器の影響度の違いやリスク増大などが懸念されます。これらに対しては、菅野の発表にあった様にリスク評価に基づく設計的防止策やオペレーションでの対応を検討しつつ、定量的な評価が必要な個々の事象に対しては本研究の様にシミュレーション解析を活用していくことになります。
Q 遠隔監視によるデータのみでの故障診断の課題はどの様にお考えですか?
A 代表的な課題の一つに、NYKグループではSIMSをはじめとして船舶運航データの収集に努めているものの、機器制御装置の内部データや様々な制約の問題から取得が難しいデータなど未知数が一定数存在しているという点があります。また、取得されたデータを分析して異常検知や原因の考察を行うには、RDCの様にドメインナレッジをもつ専門家を交えたExpert in the loopの形が必要と考えており、これには運航経験者のみならず設計を担う製造者目線の知見も求められるという点も課題です。このような背景から本研究をはじめとして、シミュレーションモデルの開発や動作原理レベルでの基礎研究を通じた運航者目線でのNYK仕様策定など、より高度な遠隔監視の実現に向けて引き続き努めて参ります。さらには、こういった活動に参画して下さる機器メーカー等のパートナーを見つけ互いに協力できる体制を構築していきたいと考えております。
Q 故障シナリオに燃料噴射時期の変化がありませんでしたが、燃料噴射時期によってその他のパラメータ変化の影響度合いが変わると思いますがいかがでしょう?
A 本研究においては、燃料噴射時期(噴射開始時間と噴射量)は適合条件として主機出荷時データと一致する様にパラメータフィッティングをしております。一方でご質問の認識の通りで、燃料噴射時期は排気ガス温度や筒内圧をはじめとして、燃焼に関わる多くのパラメータに影響を及ぼします。そのため、故障シナリオとしてこれらパラメータが変化して主機性能に影響することを分析するために、噴孔拡大や噴射圧力低下といった故障の結果として燃料噴射時期が変化した際の挙動を検証しております。また、他パラメータ変化の影響度合いを厳密に議論するために燃料噴射時期を直接変化させ感度分析をしていくことも必要であり検討を進めております。
安藤 英幸 講演総括「サイバーフィジカルで切り拓く海事産業の未来」
Q MBSEやMBDにおいて、「モデル」が重要と思いますが、この「モデル」とは「シミュレーションモデル」という意味ですか?
A 「モデル」は、Model-Based Systems Engineering(MBSE)では、文書による記述ではなくモデルによる記述と言う意味での「モデル」で、システムへの要求や機能、システムの論理的な構成(アーキテクチャー)をダイアグラムで表したものを指します。一方で、Model-Based Development(MBD)では、開発する制御システムや、制御システムが制御する対象のプラントのシミュレーションのことを「モデル」と呼び、コンピューター上で実行可能なプログラムのことを指します。
MTIへのご要望に頂いた質問
Q 車、飛行機、さらには宇宙と他のモビリティーとの比較、そこでの船の立ち位置が分かるような話や、さらにはモビリティーとモビリティー以外との比較について教えてください。
A ご指摘のとおり、車、飛行機、宇宙と言った他のモビリティーとの比較で説明することで、船の立ち位置が分かり易くなると思いますので、是非、今後、そうした形で説明を加えていきます。

 

『Monohakobi Techno Forum 2023』開催レポートおよびご質問への回答