MTIジャーナル

MTI Journal.07

シンガポールにて海事産業の
次世代
ソリューションの
研究・開発に挑む

藤岡 弘幸


シンガポール支店 上級研究員

2019年3月7日掲載

※職名は掲載当時

 

2015年に日本郵船の技術系社員として中途入社し、新造船計画部門を経験後、2017年よりMTIに出向しています。シンガポール支店に着任後は、様々な企業とコラボレーションしながらコンテナ船の運航オペレーションに関するシステム開発や、現地の研究機関・シンガポール政府海事部門との交流を通じた共同研究プロジェクトの立ち上げを推進するなど、多岐にわたる業務を担当しています。

MTIシンガポール支店の活動とは?

シンガポールのGDPの7%を占め、約17 万人の雇用を生み出している海事産業は国内の重要産業の一つとして位置付けられており、シンガポールでは海事港湾庁(Maritime and Port Authority of Singapore、以下、MPA)により、様々な補助金拠出の仕組みや研究開発リソースが整備されています。またMPAは海事関連企業に対して税制優遇措置を設け、企業誘致を積極的に推進しており、シンガポールには様々な国から海事産業関連企業が集結しています。

そのような環境の中で、MTIシンガポール支店は日本郵船グループの研究開発部門として、各種補助金制度や研究開発リソースを活用しながら多岐にわたる活動を推進しており、私自身も日々その新鮮味あふれる業務に楽しく取り組んでいます。
今回はその業務内容を”現場”、”国際性”、”主体性”の3つのキーワードに沿ってご紹介します。

オフィスから見えるシンガポール沿岸の様子

オフィスから見えるシンガポール沿岸の様子

目の前に広がる現場、課題を定義し解決する

シンガポールの港には常に約1000隻の船舶が入港しており、研究開発の課題にあふれた現場がすぐ目の前に広がっています。その中でMTIシンガポール支店は、船を所有する船主/運航するオペレーター/船を操船する乗組員/港を運営するターミナルオペレーター/貨物の輸送を依頼する荷主など、様々な関連企業と接点を持ち活動しています。

私たちの仕事の醍醐味は正に”問題解決”であり、それぞれのユーザーニーズをきめ細やかに汲み取りながら、今までに無かったソリューションやツールを関連企業や研究機関とコラボレーションしながら研究・開発していきます。その中の一つに、私が注力して取り組んでいるプロジェクト、コンテナ船の最適運航オペレーションを実現する”IBIS PLUS”システム開発があります。

日本郵船では2012年からコンテナ船隊での最適経済運航を目的としたIBIS(Innovative Bunker & Idle-time Saving)プロジェクトを推進してきました。これは日本郵船とMTIが研究開発を進めてきたSIMS(海陸間情報共有システム)データを始め、気象・海象予測、海流データや各船の運航状況、航海計画などの膨大な情報をリアルタイムで連携させ、オペレーターに把握してもらうことで、コンテナ船運航における日々のスケジュール調整や補油計画等の意思決定をサポートし、最適運航を実現するというものです。

IBISプロジェクト概要

IBISプロジェクト概要

このIBISプロジェクトにおける各種取り組みを、一つの業務システムに組み込みセミオート化を実現する、”IBIS PLUS”システム開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーを担当しています。私自身、システム開発を担当することは初めての経験であり、ユーザー(コンテナ船運航オペレーター)に必要な情報を見やすくそして正確に画面に集約させること、日本郵船にて長年培ってきた運航ノウハウを定式化し開発担当者に説明し、正しくシステムに落とし込むことが非常に難しく、システムのユーザーインターフェイスのデザインや各種機能の要件定義は試行錯誤の連続です。

システム開発自体は海外企業と実施してるため、開発担当者とのコミュニケーションはもちろん英語になります。またユーザーニーズを最大限に取り込むために機能の開発からリリースまでを短期間で繰り返し行う、アジャイル開発手法を採用しており、開発機能の優先順位付けを上手く整理することも求められます。
プロジェクトマネージャーの立場としてはユーザーの日常業務をしっかりと理解した上で、スピーディーかつ細やかにシステムの要件を定義する必要があるため、コンテナ船のオペレーションに関する実務知識の習得にも注力すべく、日々勉強の毎日を送っています。

システム開発社との打ち合わせの様子

システム開発会社との打ち合わせの様子

現在、開発した”IBIS PLUS”システムは世界第6位の船体規模を持つOcean Network Express Pte. Ltd.社*1(以下、ONE)にて利用され、ONEにて運航されている約240隻のコンテナ船の最適運航オペレーションに活用されています。
これまでの研究開発で得られた知見をシステムに組み込み、すぐに現場で活用する。またユーザーの反応を肌で感じ、フィードバックを得ながらシステムを改善し、新たな課題を解決し続けるという業務は、非常にやりがいと面白みがあると考えています。

インターナショナルな研究活動

シンガポールには海運会社だけでなく、様々な国から海事産業関連企業が集結しているため、海外企業との共同研究開発のチャンスも大きく広がっています。

これまで日本郵船グループでは、中期経営計画*2に基づきグリーンビジネスの展開にも積極的に取り組んできましたが、現在MTI シンガポール支店では更なる新しい再生可能エネルギーに関する技術の習得のため、オーストラリアの潮流発電タービンメーカーのグループ会社であるMAKO Energy Pte. Ltd.社*3とSentosa Development Corporation*4が実施する潮流発電装置の実証試験プロジェクトに共同研究パートナーとして参画しています。本プロジェクトは、海洋再生可能エネルギーの商用化に向けたシンガポール国内初の実証試験であり、春頃よりシンガポール島とセントーサ島をつなぐ橋(セントーサ・ボードウォーク)の橋脚に潮流発電装置を設置し、発電効率や発電コストの試算・蓄電装置の検証等を進めていきます。

このように様々な海外企業や大学などとの関係を構築しながら、日本郵船グループとしての研究開発を進めていくことは調整力が求められる難しい業務ですが、新たなグリーンビジネス創出に繋げていきたいと考えています。

セントーサ・ボードウォークでの調査

セントーサ・ボードウォークでの調査

潮流発電装置

潮流発電装置

研究開発のチャンスは無数、自分自身で切り拓く

その他にもシンガポールには2016年に日本郵船グループが海運・物流分野における次世代サービスの開発・提供を目的に設立したSymphony Creative Solutions Pte. Ltd.社*5がありMTIシンガポール支店も密に連携しながら、活動を展開しています。

上述の通り、シンガポールには様々な研究開発を支援する仕組みや研究開発リソースが整備されているため、しっかりと”課題”の定義ができれば、必ず他社や研究機関とのコラボレーションが実現でき、解決に向け一緒に取り組んで行くことができます。“課題”を定義することは、問題の本質を理解した上でユーザーニーズを発掘していく必要がありますが、これは自分自身でしっかりと実務の知識を習得し、幅広く情報収集を行わないと見えてくることはありません。また様々なパートナーを巻き込み信頼関係を構築しながらプロジェクトを進めていけるかどうかも自分次第ですので、非常に主体性が求められる業務であると考えています。

このような恵まれた環境を最大限に活用して、今後も一つでも多くの研究開発プロジェクトの推進や現場での課題解決に向け、取り組んでいきたいと考えます。

訪船時の様子

訪船時の様子

*1Ocean Network Express Pte. Ltd.社:
商船三井(株)と川崎汽船(株)、日本郵船(株)の邦船三社によるコンテナ船事業統合会社

*2中期経営計画:
“Staying Ahead 2022 with Digitalization and Green”

*3MAKO Energy Pte. Ltd.社:
豪州の潮流発電タービンメーカーElemental Energy Technologies Ltdの子会社で、
シンガポールを拠点に潮流発電を含む再生可能エネルギーに関連したソリューションを提供している。

*4Sentosa Development Corporation:
シンガポール セントーサ島の開発・運営・広報を担う通商産業省の下に設置された法定機関

*5Symphony Creative Solutions Pte. Ltd.社:
日本郵船(株)、MTI、(株)NYK Business Systems、(株)ウェザーニューズ、(株)構造計画研究所の5社で設立した企業

関連リンク

2018年11月28日付プレスリリース:シンガポールで潮流発電の実証試験に参加