MTIジャーナル
MTI Journal.09
ECDIS開発経験を活かした
自動運航船への取り組み
森田 敬年
船舶技術グループ 主任研究員
2018年10月からMTIに出向し、自動運航船に関する研究に従事しています。出向元では、電子海図情報表示システム(ECDIS)の開発、およびECDISをベースにした機器の製品開発を担当していました。ECDISは船橋内にある航海機器の中において、その機能性から、電子海図の表示だけではなく、各種センサ情報の集約・表示、気象・海象情報やNAVTEXといった船外からの情報も表示といった、統合情報表示システムという側面も持ちはじめています。
将来の自動運航船にどのような航海計器が装備されるようになるかは現時点では不明ですが、しばらくの間はECDISが船橋に装備される機器類の中心になると考えています。
自動運航船の研究開発
自動運航船についての研究開発は世界中で行われていますが、MTIでは自動運航船は、あくまで船舶の安全運航、乗組員である船員の作業負担軽減および船舶の効率的な運航を極める取り組みの延長線上にあるものと考え、まずは操船者の意思決定サポートシステム(Decision Support System: DSS)である、行動計画システム(Action Planning System: APS)の構想を提案し、ユーザである船長・航海士とメーカの技術者の知見を合わせたシステムの概念設計に取り組んでいます。
この中で私は、2019年1月中旬からフィンランドのヘルシンキに長期出張し、欧州船級からAPSの概念設計の認証を取得する業務に取り組んでいます。自動運航船のような未来の技術に向けての基礎となる研究に携われることに、非常にやりがいを感じています。
APSのコンセプト認証取得に向けて
自動運航船に関連するシステムについては、現時点ではIEC(International Electrotechnical Commission)の試験規格はもとより、IMO(International Maritime Organization)の性能基準も発行されていません。そのため、各船級協会がそれぞれ独自の自動運航船開発のガイドラインや基準を発行し、自動運航船に関連するシステムに対して、認証を与えるといった動きが始まっています。
そこで、APSに関しては、将来の自動運航船の技術を包含するフレームワークと考えるので、概念仕様の作成段階から、船級協会の中でも自動運航船の分野で先行する欧州船級のコンセプト認証の取得を目指しており、将来的にはDSSとして標準化を考えています。国際航海に従事する一般大型商船が現状から一気に自動運航船に進化することは考えられず、ユーザとメーカの双方の考えが反映され、欧州側の要求も踏まえたAPSが標準化されると、一般の商船にも装備されることにつながり、合理的な価格帯でのシステム構築が可能になると考えます。そうすることで、APSの概念は世界中に広まっていくことが期待できます。(ガラパゴス化の回避。)
認証取得のための準備作業
欧州船級の認証取得に先駆けて、まずは認証取得に必要なドキュメント作成の準備期間としての研究開発プロジェクトを実施することになりました。
プロジェクト開始当初は正直手探りの状態で、ガイドラインを読んだだけでは意図するところが十分理解できず、間違った解釈をして作業を進めているところも少なからずありました。しかしそこは打ち合わせを重ねて都度認識の違いを埋め、日本側に情報展開するという様に作業を進めました。地味な作業ですが、膝を突き合わせ、理解していることを確認し、次のステップに進むという作業を何度か実施するにあたり、短時間の移動で訪問、時差なしでやり取りできたりすることで、効率的に作業を進めることができました。何より、移動による体力的な負担が少なかったことが大きいです。
北欧における自動運航船関連の技術研究
Kongsbergの周囲監視システム自動運航船の研究開発は、北欧(ノルウェー、フィンランド)が先行しています。2018年12月には、Rolls-Royce(現Kongsberg)やABBといった企業がそれぞれのプロジェクトで自動運航、遠隔操船といった実証実験の成功を発表しています。(実験海域はともにフィンランド国内の沿岸域。)
長期出張時にこれらの企業への訪問と遠隔操船設備の見学の機会が得られました。これらの実証実験はいずれも小型のフェリーを使って実施されています。一見するとMTIがターゲットとしている一般大型商船とは異なりますが、話を聞くと一般大型商船で未解決問題である、国際ルールや高速通信といったことを回避するために沿岸海域の小型フェリーを対象にしているのと、小型フェリーにおいてもこれらの技術は、いわゆる働き方改革へのアプローチとして必要との考えを持っていました。(一般大型商船についても当然対象と考えているという意味。)
こういったことは日本国内にいるだけではなかなか得にくい情報ではあると思うので、今回MTIがOne Seaへ参画することで、世界の自動運航船の動向を得られるということは大変有益だと考えます。
オープンイノベーションからその先へ
幸いなことに、MTIには様々なバックグランドの技術者と現場のオペレーションに精通したユーザが集まっており、また、日本の海事クラスターとグローバルなパートナーとのネットワークも整っているので、自動運航船の実現に向けて、MTIがファシリテータとなって推進していくことは十分に可能だと思います。日本の海事業界が北欧勢をはじめ、世界のフロントランナーと伍していけるよう、皆で取り組んでいきたいと思います。