MTIジャーナル

MTI Journal.24

LNG運搬船のIoTデータの標準化、
データ利活用の促進に向けて

古川 幹貴


船舶物流技術グループ 上級研究員

2024年1月17日掲載

※職名は2023年12月31日時点

 

2021年6月より舶用機器メーカーからMTIに出向し、主にLNG運搬船より収集されたデータを利活用するためのインフラに関わる業務に携わっています。
日本郵船・MTIでは、2008年からSIMS(Ship Information Management System)と呼ばれるデータ収集装置を用いて船舶のセンサーデータを収集、陸上へ送信しデータを利活用することで、安全・効率運航に貢献しています。

LNG運搬船のデータインフラ構築

LNG運搬船では、Low/High Duty Compressorのような運航及び荷役に必要な重要機器の故障防止のための状態監視や、LNG貨物の状態監視による最適オペレーション方法の検証等、運転データの活用による安全で効率的な運航への貢献が求められています。これを実現するためには、プラットフォーム構築や、どういったデータを取得する必要があるかを整理(取得データのデータ標準化)することが必要です。私の主な業務は、このデータインフラを支え、日本郵船が運航するLNG運搬船の安全で効率的な船舶運航に寄与することです。

LNG運搬船のデータ利活用の現状・課題

一般貨物船で取得できるセンサー計測項目(以下、チャンネル)は主に推進関連機器に限られ1,000~3,000点程度のため、全てのチャンネルをSIMSで陸上へ送信することが可能ですが、LNG運搬船ではLNG貨物関係のチャンネルが追加されるため取得できるチャンネルが10,000点を超えます。そのままではSIMSで送信できるデータ点数上限を超えるため、送信するデータを船ごとに選定する必要があり、またチャンネル点数も多いことから最終決定までに多くの時間を要します。LNG運搬船は、船によってLNG貨物プラントの仕様が異なるケースが多く、それによって取得できるチャンネルの数や種類も大きく異なります。船の仕様に応じて取得データを検討する必要があることが一般貨物船と異なる点で、LNG運搬船のデータ標準化における大きな課題です。

また、日本郵船・MTIでは安全で効率的な船舶運航を達成することを目的として、一般貨物船をはじめとした船舶データを活用した取り組みを推進しており、データを解析・活用するアプリケーションとしてLiVE for Ship Managerを利用しています。 一方でLNG運搬船では推進関連機器の状態監視だけでなく、LNG貨物や大規模で複雑なLNG貨物プラント関連機器の状態を監視する事も求められています。これに対して、LiVE for Ship Managerでは貨物関連のデータを解析・活用できないため、LiVE for LNG Carrier(以下、LNG船版LiVE)をMTIで開発しましたが、アプリケーションが別で管理されていることと、それによりデータインフラに特殊な対応が多く盛り込まれていることも現状の課題となっています。

LNG運搬船の機関プラント

データ収集装置・アプリケーションの転換

一般貨物船では、これまで搭載してきたSIMS2のハードウェア(HW)の高齢化、ソフトウェア(SW)の保守期間終了も近づいており、次世代SIMS(SIMS3)への換装や新規搭載が進んでいます。SIMS2搭載時は60分間隔で取得していたデータもSIMS3では1分間隔と60倍の粒度となります。

また次世代SIMSの搭載変更にあわせて、データ活用アプリケーションもより高粒度のデータが閲覧可能なアプリケーション「WADATSUMI」への移行を進めており、データ収集装置・アプリケーションの転換は日本郵船全社的な動きとして進んでいます。

LNG船版LiVE、新環境への移行検討

私がメインで担当している本プロジェクトは、LNG運搬船でもディーゼル船と同じアプリケーション・データインフラで管理できるように移行することで、日本郵船でのさらなるデータ利活用に寄与するものと考えています。

新環境への移行には、データインフラの整備はもちろんのこと、LNG運搬船特有の問題・懸念点洗い出し、標準的に取得するデータの決定、アプリケーションの計算ロジックの標準化等が必要で、実際に運航している船の情報をもとにユーザーへのヒアリングや関連部署と協議を行い、進めています。

WADATSUMI移行に伴うデータ収集装置、データ粒度の変更点

今後の展望

今回、本プロジェクトを担当することで日本郵船が運航しているLNG運搬船の取得データの標準化の一部に携わりましたが、データ標準化の道のりは長く険しいものだと感じました。今後標準化したデータを軸に、LNG新造船の設計・建造前に取得データ方針が決定できれば、各船でのデータ活用も統一され建造工程も効率的になり、舶用業界に良い影響を与えることになると思います。

また、今回WADATSUMIへ移行できなかった一部のLNG運搬船の移行についても今後進めばアプリケーション運用保守の一元化が可能となりますので、本出向期間中の業務が今後のプロジェクトの一助になればと思います。

MTIで学んだこと、今後に活かしたいこと

私の出向元は舶用機器メーカーであり、主業務は電装部品の詳細設計ということで、決められた時間内に業務を素早く、数多く処理することが求められるので、どうしても視野が狭くなりがちになっていたと思います。
MTIでは様々なバックグラウンドを持ったメンバーが集まり業務を行うため、多種多様な考え方を得ることができます。また日頃から、多くの情報が流れてくるため、知識・視野が広がると感じています。業界の構造や船社の業務についても、出向元では決して学ぶことができないことが多くありましたので、この経験を活かして自分の今後のキャリアに繋げていきたいと考えています。