MTIジャーナル

MTI Journal.08

デジタライゼーションを
支える
インフラの構築

財前 正吾


船舶技術グループ 主任研究員

2019年3月15日掲載

※職名は掲載当時

 

2016年12月からMTIに出向し、主に船舶の通信インフラに関わる業務に従事しています。昨今、スマートフォンの急激な普及に見られるように、高速で大容量といった通信需要の増加にともない、陸上ではその通信インフラの技術革新が加速的に進んでいます。船の世界においても、陸上とはまだ比較にならないものの日進月歩、技術は進み、10年前と比べても格段に船と陸の距離が縮まってきていると言えます。

このような状況において日本郵船・MTIでは、衛星通信や陸上携帯網等を介して船舶における様々なデータを収集し、船上及び陸上において、それらデータを分析することで、安全で効率的な船舶の運航を実現し、お客様へ提供するサービスバリューの向上を日々目指しています。

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私の主な業務は、これらの活動のベースとなるデータ収集に関して、より多く、詳細なデータを、より効率的、安定的に、船から集める仕組みを構築することです。見栄えの良いアプリケーションの開発等に比べると地味な部分にはなりますが、野球で投手がボールを投げないと全てのプレーが始まらないように、まずは船からデータを持ってくるという全ての活動の起点となる重要な部分に関われることは、非常にやりがいのある仕事だと感じています。

進化を続けるSIMS

現在、日本郵船・MTIではSIMS(Ship Information Management System)を約200隻に搭載し、船上でデータを収集、計算し、陸上へ送信しています。このSIMSが日々安定的に働いてくれるお陰で、多くのデータが陸側にも集まり、研究員は日々そのデータをどう活用していくか模索しています。SIMSは、標準的には1時間毎にデータを計算し陸上に届けてくれるわけですが、これを20分、10分、6分、と言った具合にどんどんとデータの粒度を上げることで、より細かい分析が可能となるように検討を進めています。

また、SIMSのデータ収集対象はVDR(航海系の情報)とエンジンのデータロガー(機関系の情報)の2つのソースを基本としていますが、これを他のセンサーデータと連携させることで今まで収集できなかったデータを収集可能な基盤になってきています。さらに、我々は「データの標準化」と呼んでいますが、データロガーひとつとっても色々なメーカ・機種が存在し、各社各機種それぞれのフォーマットでデータが出力されるため、陸上でのデータ活用の際に混乱が生じることがあります。そこで、これらのデータを共通化する活動(新スマートナビゲーション研究会でのISO規格化活動との連携)を行っており、より効率的にデータが活用できる基盤の構築にも寄与しています。

次世代SIMSの検討(NTTグループとの協業)

そういった活動と並行して、次世代のSIMSがどうあるべきかという議論も進めています。上述の通り、日本郵船・MTIでは、安全かつ環境にやさしい運航を実現するため、船舶のIoTデータを運航ノウハウに基づいて分析、活用する取り組みを進めていますが、いくら新しいデータ活用のシステムを開発しても、世界中を運航している船を追いかけてシステムを導入することは容易ではありません。また船の衛星通信の速度は、効率的にシステムのアップデートを行うにはまだ十分でないという課題があります。

そこで日本郵船・MTIでは、NTTグループとのコラボレーションにより、遠隔によるシステム配信やエッジコンピューティングといったNTTグループのICT技術と私たちの課題やニーズを掛け合わせることにより、弱点の克服に挑んでいます。近い将来、船舶も高度にネットワーク化され、運航の自動化も進んでいきます。そのような中でも基盤となり得る次世代の船舶ICT プラットフォームの実現や、さらなる船舶のイノベーションを起こすべく活動しています。


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インフラの整理整頓とサイバーセキュリティ(Dualog社との協業)

これまで、船舶におけるデータ収集に関する活動について述べてきましたが、衛星通信の発達やデータ収集の効率化が進みそのニーズが増えるほど、必然的に船内においては様々な機器がお互いに接続され、ネットワーク構成が複雑化することになります。その結果、業務用、福利厚生用のネットワーク整理やシステム運用の管理、通信量のモニターといった新たな課題が発生することになります。これらの課題を解決するため、日本郵船・MTIではDualog社との協業で、船内のルーティング、ファイヤーフォールの設定、Eメールや乗組員のデータ使用の管理、トラフィックの監視等々を一元化し、効率的に管理が可能となる、そんなソフトウェアの開発に挑んでいます

繰り返しになりますが、通信技術の発達により船陸の距離が縮まったことにより、近年海運業界においてもサイバーセキュリティリスクが高まってきており、船上及び陸上においてどういった対策を今後講じていく必要があるか検討を進めています。このソフトウェアでは、船内の状況の整理整頓を行いセキュアな通信を実現することはもとより、サイバーセキュリティ上のリスクに関する状況のモニタリング機能の実装も検討し、日本郵船が運航する多くの船の状況を陸上側で監視できる大きな仕組みの構築を目指しています。また、海運業界におけるサイバーセキュリティそのものについてのスタディを各国船級協会と連携しながら理解を深め、実際の船舶の運航・管理や船会社の体制にどう落とし込んでいくべきか、検討を進めています。

海運業界全体のデータ活用促進(シップデータセンターとの連携)

日本郵船・MTIにおいては上述の通り、自社でのデータ活用に向けた活動を推進していますが、一方で主に日本の海運業界全体の発展に寄与するため、日本船級NKの子会社であるシップデータセンターとの密な連携を行い、IoTならぬIoS(Internet of Ships)構想に参画し、データ活用促進を目指しています。

上記、NTTグループとの協業にて収集したデータや進化版SIMSにおいて収集したデータをシップデータセンターへ送信、その保管状況を確認したり、シップデータセンターに格納されたデータを取り出し、見える化するアプリケーション(Ship Data Viewer)を開発する等の活動を行っています。

 

データ活用におけるステークホルダー相関図

データ活用におけるステークホルダー相関図

これからはアイデア勝負!

本稿では、通信技術の進歩にともなうデータの収集装置、船内のネットワーク管理や運用、あるいは業界全体のデータ活用促進について触れましたが、やはりこれらはあくまでインフラであり土台です。日本郵船・MTIでは様々なプロジェクトが立ち上がり、収集されたデータの活用方法について日々議論が進んでいますが、ご存知の通り海運業界は船会社だけでなく、船主、船舶管理会社、造船所、航海機器メーカ、エンジンメーカ、その他多数のメーカ、港湾管理者、船員組合さらには、荷主といったお客様まで様々な立場の方々が関わり成立するものです。それぞれのプレーヤーがどういったデータをどういう風に活用すればどんなものが生まれてくるのか、の議論はこれからどんどんと活発になるべきで、そこで生まれてくる様々なアイデアが、安全性・効率性を高めることはもとより、この海運業界をどんどん面白いものにしていく起爆剤となるはずです。インフラは確実に構築されてきています。後はアイデア次第!これまでに無いアイデアで、この海運業界を共に盛り上げていけたら大変うれしく思います。

Dualog社とのワークショップ参加メンバー

Dualog社とのワークショップ参加メンバー

関連リンク

2017年5月31日付プレスリリース:日本郵船株式会社とノルウェーDualog社が戦略的パートナーシップを締結 ―世界的な海事ITの先進企業とIoTに関するイノベーションで協力―

2017年9月19日付プレスリリース:船舶IoTの次世代プラットフォームに関する共同実験の開始とさらなる連携について

2018年2月15日付プレスリリース:船舶IoTの次世代プラットフォームの共同実験に成功