MTIジャーナル
MTI Journal.29
海洋×宇宙で取り組む
ロケット洋上回収システムの開発
松下 凜太郎(主筆) 小知井 秀馬 (執筆協力)
SI&コンサルティンググループ 研究員
※職名は2026年3月31日時点
はじめに
2023年3月に日本郵船が公表した中期経営計画では、宇宙関連事業が新規事業の一つとして位置付けられました。これを受け、2024年4月にはMTIシステムインテグレーション&コンサルティンググループ内に宇宙技術チームが設立され、私は同チームの初期メンバーとしてアサインされました。
私自身は2022年4月にMTIへ新卒として入社し、自動運航船開発におけるシミュレーションプラットフォームの開発や、風力推進装置を搭載した船舶の省エネルギー効果推定など、次世代船舶技術に関する研究開発に従事してきました。現在は同チームにおいて、衛星打上げ用ロケットの1段機体を船上で回収する「ロケット洋上回収システム」の開発に携わっています。
本稿では、こうした背景のもとで進めているロケット洋上回収システム開発の取り組みについて紹介します。

左:小知井、右:松下
なぜ、海運の研究会社が宇宙に取り組むのか
近年、SpaceXが展開するStarlinkを代表とした衛星網の拡大などを背景に、ロケット打上げの需要は国内外で急速に高まっています。これに伴い、ロケット打上げの高頻度化・低コスト化、さらには機体の再使用は宇宙産業全体に共通する重要な課題となっています。そして日本においては、国土面積が限られていることから、陸上回収に代わり洋上回収技術が有力な選択肢の一つと考えられています。
また、海運会社として宇宙産業のサプライチェーンに関与することで、ロケット回収に限らず、打上げ支援、ロケット・衛星・関連部品の輸送、さらには船舶データと衛星データを組み合わせた新たな価値提供など、多くの事業展開の可能性があります。
こうした社会的背景を鑑み、当社を含む日本郵船グループでは新規事業検討の一環として、船舶を活用した宇宙産業参画への挑戦を開始しました。
日本郵船の宇宙戦略基金への採択
ロケット打上げ需要の拡大とともに、国内の宇宙産業市場も成長を続けています。こうした状況を踏まえ、日本政府は官民連携による宇宙開発を促進する目的で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に宇宙戦略基金を設置し、民間企業による技術開発を支援しています。
日本郵船グループは、この基金のうち「将来輸送に向けた地上系基盤技術(A)再使用機体の回収系に係る地上系基盤技術開発」というテーマに、日本郵船を代表機関として応募し、2024年12月に採択されました。これを受け、2025年4月より再使用型ロケットの洋上回収システムに関する研究開発に着手しています。本活動にはMTIも協力機関として参画しています。
開発は最大4年間の実施となり、2028年にはシステム実証試験を予定しています。現時点では開発の初期検討を行っている段階となりますが、その一部についてご紹介します。
海洋×宇宙で取り組む開発
宇宙戦略基金を通じた本研究では、ロケットの洋上回収システムに必要となる要素技術を整理し、その開発および技術的な成立性の確認を行うことが求められています。そこで、まずは社会実装を想定したシナリオを整理し、そこから必要な機能や性能を洗い出しました。ここでは、国内ロケットの打上げ条件を踏まえ、回収海域は港から約1,000km離れた外洋、厳しい海気象条件下での運用を前提としました。その結果、洋上回収システム開発に必須と考えられる要素技術を下の表のように整理し、これらをターゲットとすることとしました。

社会実装を想定したシナリオ
このような洋上回収システムの開発においては、ロケット側のシステムとのインターフェイス整備は不可欠です。そこで、H3ロケット開発に代表される三菱重工業株式会社をパートナーに加え開発に取り組んでおります。また、船舶工学についても幅広い知見が求められることから、同分野に強みを持つ大阪大学や、船舶技術に精通した複数企業をパートナーとして起用し、海運・造船業と宇宙産業のコラボを実現しています。
さらには、将来的な社会実装を見据え、回収船・司令船を含む洋上回収システムの国内向けガイドラインの整備にも取り組んでいます。これにより、国内のロケット事業者が再使用ロケットを開発する際の足がかりになるとともに、海事産業による宇宙分野への参入促進につながることを期待しています。
MTIとしての強み
本研究開発は、日本郵船の技術開発グループとMTIの宇宙技術チームが全面的な協力体制を敷いて実施しています。特にMTIはModel Based Systems Engineering (MBSE) やMBD (Model Based Development) などのエンジニアリング手法を用いながら多様なステークホルダ間で目線を合わせながらコラボレーション開発を実施してきた実績があります。今回の取り組みでも、要求分析やシステム設計仕様とのトレーサビリティ確保をMBSEの考え方で実行し、シミュレーション基盤開発やインターフェイス検討をMBDによって進めることで、海洋と宇宙という異分野が共存する複雑な場において、各ステークホルダにとって望ましい結果が得られるよう開発の後押しをしています。
また、DFFAS+などの自動運航船開発での実績を元に、船舶の遠隔運用技術の研究開発にも協力しております。ロケット回収という観点では、人命安全のために一時的に本船を無人化する必要があると考え、回収時の定点保持運用を遠隔無人状態で実施するためのシステムの構築を目指しています。
開始から1年という節目を迎え、活動が加速する中ですが、引き続き一歩ずつ着実に取り組んでまいります。
関連リンク
- 宇宙戦略基金HP:将来輸送に向けた地上系基盤技術
- 2025年04月22日付日本郵船プレスリリース「JAXAの宇宙戦略基金事業に海運会社で初めて採択」
- 2025年07月24日付日本郵船プレスリリース「再使用型ロケット洋上回収システムのコンセプト承認(AiP)を取得 」
- 日本郵船の挑戦 Project Story ―Table Session-「宇宙事業への参画、新たなイノベーションを」
- 第69回 宇宙科学技術連合講演会講演集、論文「ロケット回収用船舶における船体動揺が着陸条件に及ぼす影響に関する考察」 1J15 2025.11.25
小知井秀馬,松下凜太郎,Sreenath Subramaniam(MTI),松谷広,今井源太(三菱重工業),山口真,寿賀大輔(日本郵船)
※本論文の著作権は日本航空宇宙学会に帰属 - 第69回 宇宙科学技術連合講演会講演集、論文「日本郵船におけるロケット洋上回収船の研究開発・事業開発の取り組み」 1J10 2025.11.25
児玉諭彦,加藤祥太,寿賀大輔,笹川亮,魚川隆史,名和真也(日本郵船),小知井秀馬,松下凜太郎(MTI)
※本論文の著作権は日本航空宇宙学会に帰属 - オープンイノベーション「ロケット洋上回収PJ」
本取り組みは宇宙戦略基金の補助を受けて実施しています。
