MTIジャーナル

MTI Journal.03

利用環境に合わせた
船型最適化への挑戦

柳田 徹郎


船舶技術グループ 主任研究員

2018年2月14日掲載

※職名は掲載当時

国内初の取り組み

2013年夏のおわり頃、シンガポールに拠点を構えるコンテナ船営業部門から「同航路で運航している同じサイズの傭船より20%も性能が悪い船があるが、どうにかならないか?」との問い合わせがありました。いろいろ調べたところ、実際は新造時の設計点より随分ずれた条件で使用されていることが判明したため、現在の使用条件で船型等を再設計した場合、20%程の改善ができることを営業部門に提案しました。費用対効果を検証し、すぐに費用回収できることがわかったので、工事の実施を決定しました。当時、海外の海運会社では工事実績がありましたが、国内船社では初めての取り組みです。

実際の運航状態に合わせた船体改造

通常コンテナ船は、路線バスのように、ループ状に定まった航路をスケジュールどおりに決まった船速(船の速度)で運航します。また、喫水(船が海に浸かっている深さ)も投入先航路の荷物量に合わせて設定され、船体形状は想定していた船速で最適となるよう造船会社にてデザイン・建造されています。

航路(例)

航路(例)

当時、燃料油の高騰や、他業界からの参入により船腹余剰が生じ、減速運航が進められていました。船が余るため、スケジュール自体も変わりました。また、集荷する荷物の量も景気に合わせて変動するので、就航後には建造時に計画された船速・喫水とは異なる状態で運航されていることが大半でした。そういった中、実際の運航状態に合わせて最適な船型に改造し燃費を削減しようという試みとなります。

運航プロファイル(喫水、船速)を基に新たな設計条件を設定

運航プロファイル(喫水、船速)を基に新たな設計条件を設定

営業のスピード感で

いざ案件がはじまると、営業部門の収支と直結するテーマであることから、一般的な開発プロジェクトとはまるでスピード感が違いました。秋には、実施するかどうかも流動的であったものが、あっという間に話が進み、冬のはじめにはプロジェクトを立ち上げ、年末には水槽試験を実施、年始にゴーサインを受けたあとは、春のドックに向けて図面を作成、ヤードとの調整を進め、ぎりぎり工事に間に合わせるという、なんとも慌しい半年間となりました。

実際に6mの模型を引っ張ります

ここで少し、最適船型の検討作業をご紹介します。下の写真は長さ6mほどの模型を用いた水槽試験の様子です。コンピュータシミュレーションで候補船型をある程度しぼった後、このような大型模型を作成し、プールのような大きな水槽で実際に模型を引っ張って、最適船型を選定します。(全長400mもの長い水槽もあります。)

水槽試験の様子

水槽試験の様子

船体抵抗を低減するため(省エネのため)船の船首部にはバルバスバウと言われる球状の突起物が付けられています。下図の通り、船が航行すると船体から波が作られます。これをバルバスバウが作る波で打ち消すことで、抵抗を減らす仕掛けです。ただし、船やバルバスバウでできる波は、船速や喫水で異なってくるため、運航条件が変わった場合には最適化の余地が生まれることになります。

船のバルバスバウ

船のバルバスバウ

バルバスバウと船体がつくる波の関係

バルバスバウと船体がつくる波の関係

水槽試験の写真に戻りますと、上段、計画条件では左側の改造前バルバスバウの作る波が少なく、船体形状も最適に近いことがわかります。一方、下段、実際の運航条件では左側から右側の改造型に変えることにより、作られる波が小さくなっています。この船型改造で数割の抵抗低減(燃費低下)が見込まれることを、水槽試験で確認することができたので、この船型に決定し図面作成を進めました。

約2年間で数十隻の工事を実施

準備にはひとつの船型あたり半年ほど、改造工事には準備から実施までで数ヶ月かかります。それに対して最終的には約2年の間に多数の船型を対象に、数十隻の工事を実施したので、その間は息つく間もなく走り抜けたと言う感じです。

数十隻を対象に、2~3種類の改造工事を行うわけですから、のべ100件以上の工事手配となります。それぞれの準備作業が時間的に重なっていることもあり、手配連絡、取り交わす書類の数は膨大なものでした。

万が一にもサービスに影響を与えるわけにはいかないので、進捗確認は丁寧に行い、緊張感をもって進めていましたが、社内・社外いずれにおいても発注や手配において、多少のミスが起こることもありました。しかし、日本郵船グループの緊密な連携により、お互いにフォローし、また時には外部のメーカーさんとも力を合わせてリカバーできたことはとても印象的であり、ありがたかったです。

また、日本船社では初めての案件であったことから、船級においても初めての案件となり、ひとつずつ確認・調整を進めていただきました。中には、既存の規則に照らすと判断が難しいという場面もあったようですが、とても親切に、また柔軟にご対応いただき、無事に計画遂行することができました。皆さんのご協力をえて何とか成功に導くことができたと思います。

before-after

改造後の燃節効果

船によっては工事内容も異なりますが、20%ほどの燃費削減効果を確認できています。景気変動に合わせて船型を変えるという国内では前例がなかったアイデアをスピーディーに実現できたことは現場に近い当社ならでは実績であり、また日本郵船グループのチームワークの賜物であると思います。

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Monohakobi Techno Forumで成果を発表

Monohakobi Techno Forumで成果を発表

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船型改造